犬の帝国で起きる王殺害事件。手探りの捜査とパルクールで真実に迫るハードな推理ADV『Darkway: Murder of King Mere』レビュー #DarkwayMurderofKingMere

雪深い「インクの街(City of Ink)」に降り立った時、最初に感じたのは静寂と、その裏に潜む不穏な空気だった。犬たちが支配する帝国「Dog Empyre」で起きた国王殺害事件。プレイヤーは探偵の弟子(Apprentice)として、この地に足を踏み入れることになる。

本作『Darkway: Murder of King Mere』は、ピクセルアートと油絵のようなタッチが融合した独特のビジュアルが目を引くミステリーアドベンチャーだ。一見すると可愛らしい犬たちの世界だが、そこにあるのは血なまぐさい陰謀と、一筋縄ではいかないハードな推理体験だった。

絵画のような世界で繰り広げられる「手探り」の捜査

本作の最大の特徴は、徹底して「プレイヤーに委ねられた」捜査プロセスにある。

物語は、国王「King Mere」が殺害され、その弟が犯人として告発された4日後に幕を開ける。プレイヤーには、誰を疑い、誰から話を聞くかという明確なルートは示されない。雪に覆われた街を自由に歩き回り、住人たち(全員が擬人化された犬だ)に聞き込みを行い、証拠を集めていく。

実際にプレイして驚かされたのは、その情報の断片化具合だ。最近の親切なアドベンチャーゲームに慣れていると、突き放されたように感じるかもしれない。だが、そこが良い。会話の端々にある違和感、住民同士の人間関係の軋轢、そして街のあちこちに隠されたメモ。これらを自分の頭の中で(あるいは物理的なメモ帳を使って)繋ぎ合わせる感覚は、まさに探偵そのものだ。

ビジュアルは「Painterly-Pixel Art」と称される通り、ドット絵でありながら筆のタッチを感じさせる独特の質感を持っている。冷たい風が吹き抜ける街の描写は美しく、どこか寂しげなBGMと相まって、孤独な捜査官としての没入感を高めてくれた。

パルクールで切り開く新たな視点

推理アドベンチャーとしては珍しく、本作には「パルクール」の要素が盛り込まれている。証拠や証言は、単に道を歩いているだけでは見つからない場所にあることが多い。

城壁をよじ登り、屋根から屋根へと飛び移るアクションは、捜査に立体的な広がりを持たせている。「あの塔の上になにかありそうだ」という直感に従ってアスレチックを攻略し、重要な手がかりを見つけた時の達成感は格別だ。

正直に言えば、操作性には少々クセがある。足場の判定がシビアだったり、梯子の昇り降りに引っかかりを感じたりする場面もあった。しかし、この不自由さが不思議と「険しい雪国での捜査」というリアリティに繋がっているようにも思える。アクションゲームとしての爽快感よりも、探索の手段としての重みを感じた。

言語の壁を超えて挑む価値のある「生きた」世界

本作は現時点で日本語に対応していない。テキスト量が膨大で、かつ推理には微妙なニュアンスの理解が求められるため、英語が苦手なプレイヤーにはハードルが高いことは否めない。

しかし、それを補って余りあるほど、この世界の設定(Lore)は緻密だ。20人以上のキャラクターはフルボイスで喋り、それぞれの生活や思惑を持っている。単なる記号的なNPCではなく、彼らがこの街で生きているという実在感が凄まじい。会話の選択肢によって彼らの好感度や信頼度が変化し、引き出せる情報が変わるシステムは、『Disco Elysium』のようなCRPGの深みを彷彿とさせる。

犯人を特定し、告発するクライマックス。20種類以上のエンディングが用意されており、誤った推理をすれば容赦なくバッドエンドが待っている。自分の集めた証拠だけを頼りに、「こいつが犯人だ」と指差す瞬間の緊張感は、他のゲームではなかなか味わえないものだった。

¥920という手頃な価格ながら、ここには確かな熱量と、作家性の強いミステリー体験が詰まっている。英語の辞書を片手に、あるいは翻訳ツールを駆使してでも、この「インクの街」の真実に触れてみてほしい。そこには、ただ可愛いだけではない、骨太な犬たちのドラマが待っている。

ゲーム概要

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