笑いと感動が共鳴する秀作SF、その完成度と“惜しさ”の理由――IGN USレビューから読む『プロジェクト・ヘイル・メアリー』

『プロジェクト・ヘイル・メアリー』の海外評価はいかに映画『プロジェクト・ヘイル・メアリー』が2026年3月20日より劇場公開となった。IGN JAPANでも独自のレビューを掲載予定だが、一足先に、IGN USによる本作のレビューを全文掲載する。スコアは8点。なお、記事中には物語の展開に言及する箇所もあるため、注意して読み進めていただきたい。 2017年、フィル・ロードとクリストファー・ミラーが『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』の製作途中で「クリエイティブ上の相違」を理由に降板したとき、多くの人は『21ジャンプストリート』や『LEGO ムービー』の監督コンビによる宇宙の大作映画はどのようなものになったのか、そもそも彼らがその規模の作品を作る力量を持っていたのかどうかを夢想していた。 その意味で『プロジェクト・ヘイル・メアリー』は、2014年の『22ジャンプストリート』以来の監督作として、ロード&ミラーの力量を裏付ける映画となったようにも感じられる。2人と主演のライアン・ゴズリングは、お互いの感性を完璧に符合させながら、銀河を股にかけたエキサイティングな冒険の扉を開く。その冒険は時折テンポにぎこちなさを示しつつも、ゴズリングと、あなたがこれまで出会った中で最も素晴らしい“岩”とが織りなす化学反応によって、全編を通じて観客の感情を引き込んで離さないものとなっている。 昏睡状態から目覚め、ビニール袋の中で胃に栄養チューブを突っ込まれ、伸び切った髪とヒゲで、記憶喪失のまま、死んだ乗組員に囲まれ、しかも、宇宙にいる……。これは一日の始まりとしては最悪だ。実際、宇宙船ヘイル・メアリー号の中で主人公ライランド・グレース(ライアン・ゴズリング)は、そもそもなぜ自分がここにいるのかを思い出せず、たいへん幸先の悪いスタートを切る。 『プロジェクト・ヘイル・メアリー』は、グレースの記憶喪失を利用して地球での回想シーンを作り出し、一介の中学校教師がなぜ、どのようにして人類最後の希望となったのかを説明する。「アストロファージ」と呼ばれる地球外微生物によって、太陽のみならず銀河のあらゆる星が危機にさらされるなか、彼は地球を救うため、近隣の恒星タウ・セチへと向かうミッションに抜擢されたのだ。映画の最初の1時間ほど、こうした断片的な回想シーンは、船内でなんとか足場を固めつつあるグレースの孤立した状況を際立たせる一方、このプロジェクトの冷酷な責任者であるエヴァ・ストラット(ザンドラ・ヒュラー)や、悲運を辿ったグレース以外のクルーたちを紹介する役割も果たしている。 どれほど重大な危機が描かれていようとも、フィル・ロードとクリストファー・ミラーがメガホンを取る『プロジェクト・ヘイル・メアリー』がひたすら笑える作品になっていることは驚くにあたらないだろう。アンディ・ウィアーの原作小説を基にしたドリュー・ゴダードの脚本は、ウィアーの文章にある親しみやすい皮肉をうまく引き継いでおり、ロード&ミラーは緊迫した瞬間にも笑いをもたらすことを楽しんでいる。たとえばグレースが異星の船を発見する場面は、彼自身にとっては恐ろしいかもしれないが、その直後に漫画のような視覚的なギャグが続くことで、『プロジェクト・ヘイル・メアリー』は同じ規模のほかのSF大作とは一線を画す作品となっているのだ。 このトーンがこれほどうまく機能するのは、主演俳優のキャスティングによるところが大きい。ライアン・ゴズリングの顔が上映時間の大半を占めていようとも、彼はエゴのない演技で定評のある俳優だ。一部には、彼が『ナイスガイズ!』の腕を折られるシーンで上げた悲鳴が今でもサンフェルナンド・バレーに響き渡っていると言う者もいるのだから――。ロード&ミラーはそんなゴズリングの資質をしっかりと捉え、宇宙規模の物語へと乗り出していく。物事はいつもグレースの思いどおりには運ばないが、ロード&ミラーはゴズリングの演技を撮影・編集する手法に徹底して工夫を凝らし、グレースの苛立ちを強調することで絶えず笑いへと転化している。 ゴズリングの演技は、グレースが落ち込む場面においても同様に力強い。無言の涙や苦悩によって感情が示される場面はもちろん、たとえば自らの学術的キャリアを賭けてきた信念が完全に的外れだったと判明した後、「自分はすべてを間違えているし、すべてが間違っている」とうめく場面や、所持品から得られた断片的な情報だけを頼りに、自分の記憶にないクルーたちへ弔辞を述べなければならない場面などもそうだ。 これらはグレースの問題解決能力を示す巧みな描写にもなっているが、それだけではない。こうしたさまざまな側面は、ゴズリングの演技によっていずれも等しく重みを与えられている。それらの感情は全編を通じて表面に現れており、物事がうまくいかないときも、あるいはうまくいくときも、グレースの大きなリアクションはどれも自然で、観客が無理なく感情移入できるものとして伝わってくる。 『プロジェクト・ヘイル・メアリー』の物語は、銀河のあらゆる恒星から光が失われるのを食い止めることに焦点を当てている。しかし同時にこの作品は、グレースにとって同じくらい気の重い、もうひとつの課題を真正面から描いてもいる。それは「友達を作ること」だ。 ゴズリング演じるグレースは、本作におけるヒーローチームの“半分”にすぎない。彼と見事な相棒関係を築くのが、タウ・セチへ向かう旅の途中で出会うもう1人の宇宙旅行者、ロッキーである。ロッキーの声(英語版)と主な操演を担当するのは、リード・パペティアのジェームズ・オルティスだ。 エリディアンと名付けられた異星人の機械技師であるロッキーは、自身が旅を共にしたクルーの中で唯一の生存者でありながら、その窮地に最も不向きでもあるという点でグレースと対になる存在だ。同時に、創造的な問題解決に強い情熱を燃やすところもまた共通している。人形操演者として高く評価されているオルティスは、その芸術形式が持つ魔法を本作に注ぎ込み、ロッキーの最も微細な動きを通してさえ、これほどまでに幅広い感情表現が可能なのだということを雄弁に示してみせる。 コンピューターで翻訳されたロッキーの発話として、ロード&ミラーがオルティス自身の声を使用した選択も奏功している。これによって、オルティスの現場での演技と最終的なスクリーン上のパフォーマンスとの間に、さらなる一体感が生まれているのだ。グレースとロッキーがお互いに抱く尊敬と愛情は、常に、自分とは異なる他者の視点や能力を尊重することの価値を強く示している。彼らの関係が育まれていく試行錯誤の日々から、やがてお互いに率直で辛辣になれるほど打ち解けた間柄となっていく過程を通じて、『プロジェクト・ヘイル・メアリー』は最も喜びに満ちた瞬間を迎える。まあ、率直さという意味ではロッキーのほうが一枚上手だ。あの小さなクリーチャーは、口もないのにすごく毒舌である。

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