『inKONBINI: One Store. Many Stories』レビュー コンビニシムよりも、「聞き手」になるストーリーゲームの進化系

『シェンムー』の魂を受け継ぐ、深夜コンビニのストーリーゲーム「コンビニ店員の人生って、薔薇色のわけがないと思われている」 詩的で、外国語から翻訳された香りのするこの一文で、『inKONBINI: One Store. Many Stories』(以下、「inKONBINI」)はその幕を開ける。 聞き手になるストーリーゲームの新たな進化 1993年の夏、日本の田舎にあるコンビニ「ホンキポンキ」での1週間。主人公の真琴は、叔母「ひな」の経営するこのコンビニで1週間、深夜のシフトに入る。商品棚を整理したり、在庫の切れた商品を注文したり、客の対応をしたり、レジで商品をスキャンしたりなど、コンビニでアルバイトするシミュレーターとして十分な出来といえる。だが、それは「inKONBINI」の一部に過ぎない。このゲームの核心は客と会話し、彼らのストーリーを知るところにある。つまるところ、プレイヤーが聞き手になるストーリーゲームであり、バーテンダーとして客と会話する『VA-11 Hall-A: Cyberpunk Bartender Action』やコーヒーを淹れながら彼らの悩みに耳を傾ける「コーヒートーク」シリーズの系譜にあると言えそうだ。両作で、出した飲み物によって会話に変化があるように、本作では客の要求に応じて商品を提案し、選んだ商品によって分岐があるのだ。 しかし、3D空間として細やかに表現されたコンビニを自由に歩き回り、実際にコンビニでのアルバイトを疑似体験できる「inKONBINI」は「脱ノベルゲーム」を果たしており、「VA-11 Hall-A」が築き上げたコンセプトを大幅に進化させていることもまた事実だ。なぜなら「客の話を聞く体験」には前提として「自分が店員である」という説得力がほしいからだ。360度に広がる空間で実際に仕事ができるシミュレーションゲームのような側面を持ち合わせることで、本作はノベルゲームでは到底不可能なところまで「店員としてのロールプレイ」を実現しているのだ。 一方で、コンビニの店員というのは本来、バーや喫茶店のように客と頻繁に深い話をする職業ではないはずだ。「90年代」、「田舎」、「深夜のシフト」といった設定がある程度その矛盾を緩和しているとはいえ、「VA-11 Hall-A」や「コーヒートーク」にはない不自然さはどうしても残る。 ゲーム全編を通して、真琴のシフト中にやってくる客はたったの4人で、みんな毎日のようにやってくる。どれも個性的でドラマもあるのでエンターテインメントとしては成立しているが、むしろ印象的すぎて「田舎の深夜のコンビニ」という本来は静けさに包まれるべき空間がやけに派手に思える瞬間もあったし、すべての客とドラマが生まれる流れが少し強引に感じられたことも否定できない。とはいえ、超自然的なことが起きるわけでもないし、『ファミレスを享受せよ』のように「深夜のコンビニ」があくまで導入に過ぎない、というわけではない。 …

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