複数のドラマが交差する洗練された群像劇によって、シリーズが本来持つ価値を高めることに成功深夜のカフェを舞台に、人間とファンタジーの住人が織りなす人間模様を描き出し、アドベンチャーゲームにおいて独自のスタイルを根付かせた「コーヒートーク」シリーズ。その最新作となる『コーヒートーク トーキョー』は、タイトルが示す通り、これまでのシアトルから舞台を日本の東京へと移した作品だ。 本作は「コーヒートーク」という店舗の名称こそ受け継いでいるものの、登場キャラクターのほぼすべてを刷新しており、過去作のプレイを必須としない独立したひとつの作品として成立している。 何気ない日常のひとコマを切り取る(「スライス・オブ・ライフ」)という美学を継承しつつも、一見すると無関係に思える客たちのささやかな会話劇は、夜を重ねるごとに呼び起こし、やがてドラマへと発展していく。 ゲームシステム自体の面白さはそのままに、この日常密着系ジャンルが持っていた美学、シナリオとキャラクターの魅力を存分に引き出すことに成功しており、シリーズ最高傑作といえる。従来のシリーズのファンでも、本作から初めてシリーズに触れる人であっても、スローテンポな作品を楽しめるプレイヤーならば、おすすめができる作品だ。 いかにしてその完成度をさらに高めたのか、そしてジャンルの美学とは何なのか。本稿では過去作との比較を交えつつ、最新作となる『コーヒートーク トーキョー』を検証していく。 舞台は「東京」、変わらぬドリンク提供の面白さ 『コーヒートーク トーキョー』の基本的なゲームプレイは、人間と妖怪が共に暮らす東京の片隅の小さなカフェを舞台に進行する。プレイヤーは深夜のカフェのバリスタとして、うだるように暑い夏の夜に訪れる客たちの悩みや想いに耳を傾けながら、それぞれに合ったドリンクを提供していく。 具体的な注文から、曖昧な注文まで、客たちに合ったドリンクを推測し、提供した一杯から心をほどいていくという、シンプルなパズル的要素を組み合わせたストーリーテリングのサイクルは、本作でも健在だ。 そのうえで小さな変更点としては、提供するドリンクにおいてアイスとホットの選択が可能になったことが挙げられる。プレイヤーは細かなドリンクの材料を選択する前に、アイスなのかホットなのかを見極めなければならない。 このほかベースとなる材料にソイミルクやほうじ茶が追加され、レモンが柚子に、シナモンがマンゴーやライチといったフルーツに刷新されている。調理法や素材の調整によって客から高い評価をもらえる瞬間の手応えは、シリーズの中心的な魅力をしっかりと受け継いでいる。 そして、このカフェを訪れるのは、東京という新たな舞台にふさわしい、まったく新しい顔ぶれとなっている。 事故によって義肢となり、その痛みと日々向き合い続けるアシスタントのヴィン。スランプに陥った若きスターである音楽家のジュンと、その熱狂的なファンであるブルー。定年退職を迎え、人生の新たな生きがいを模索するケンジと、その元部下であるマコト。幽霊の少女アヤメと、彼女の未練を解消しようと奔走するフク。同級生との関係に悩む子供のエリカと、その母であるエミと父であるアッシュ。 物語の冒頭にはヘンドリーという過去作のキャラクターが登場するなど、ファンサービスといえるような要素を散りばめつつも、物語を駆動し、ドラマを支えるのはこれらの新キャラクターたちである。そのため、本作から初めてシリーズに触れるプレイヤーであっても、新鮮な出会いを存分に味わえる作りになっている。
つづき