ホメロスの古典を現代的な戦争とPTSDの寓話として再構築するも、3時間の尺の中でこぼれ落ちたもの映画『オデュッセイア』は全米公開7月17日、日本公開は9月11日。 「少しは慈悲をかけられなかったのか?」 このセリフこそが、クリストファー・ノーランが手がけた、誰もが待ち望んだ『オデュッセイア』の映画化において、最も重要な核心を突いている。本作は真に壮大なスケールを持ちながら、同時に極めてエモーショナルで鋭い一面も見せる作品だ。ホメロスの不朽の叙事詩をレンズとして用いることで、本作は戦争やPTSD、そして『オデュッセイア』が生まれてから3000年近く経った今でもなぜ人間がこれらに対峙し続けなければならないのか、という問いについて、驚くほど現代的な教訓を提示している。ノーランのこの大作は、心に響き、そしてしばしば大胆だ。しかし残念ながら、ストーリーテリングにおいて時に足並みを乱すことがあり、3時間近い上映時間であるにもかかわらず、頻繁に展開が駆け足に感じられる。その結果、天才的な瞬間が随所に散りばめられている一方で、もどかしさも残る「必見の作品」に仕上がっている。 (米国の)高校の国語の授業で『オデュッセイア』を少なくとも最初の数章だけでも真面目に読んだ人なら誰もがストーリーを知っているはずだが、ここで軽くおさらいをしておこう。本作ではマット・デイモン演じるオデュッセウスが主役を務める。彼は王であり、戦士であり、夫であり、そして父親でもあるが、アカイア人の王たちの王であるアガメムノン(ベニー・サフディ)に召集され、古代の神話的なギリシャの世界へと連れ出されて以来、故郷の島イタケーから約20年もの間、消息を絶っている。物語は時系列を崩して語られるが(何しろノーラン作品だから。だが、そもそもホメロスが最初にやった手法でもある)、故郷に残されたオデュッセウスの妻ペネロペ(アン・ハサウェイ)と、今や大人になろうとしている息子のテレマコス(トム・ホランド)は、自分たちの王が帰ってくるのだろうかと苦悩し続けている。その一方で、ロバート・パティンソン演じるアンティノオスに率いられた強欲で非情な求婚者たちは、オデュッセウスの家を我が物顔で荒らし回り、彼の富と妻を我が物にしようと争っている。 これは過去にも映画化されたことのある物語だが、これまでに大成功を収めた例はない(レイフ・ファインズ主演の2024年の映画『ザ・リターン』は素晴らしい出来だが、ホメロスの原作の最終幕しか描いていない)。そしてノーランは、案の定というべきか、ホメロスの熱烈なファンをいらだたせるような変更を原作に加えている。あちこちでプロットを変更し、ストーリー展開を圧縮し、他のギリシャ神話の要素を付け加え、時には原作の最も象徴的な瞬間さえも削除している(オデュッセウスがサイクロプスに対して「私は誰でもない(Nobody)」という策略を使うのを期待しているなら、息をひそめて待つのはやめた方がいい)。とはいえ、切り詰めたり、削ぎ落としたり、(作品の精神に則って)いくつかの要素をバラバラに解体したりすることなしに、『オデュッセイア』のすべてを長編映画に翻訳することは不可能だ。それに、高校時代に第3章より先に進めなかった人たちは、どうせ気づきもしないだろう。 ノーランの映画で最もスリリングな要素の一つは、トロイア戦争の後に故郷へと戻る道を模索するも何度も不運に見舞われるオデュッセウスと部下たちの、極めて挿話的な冒険に彼がもたらしたホラー要素である。例えば、前述のサイクロプスとの遭遇シーン(ビジュアルエフェクトで表現されているが、その演技は名優ビル・アーウィンが「導いている」)では、原作にあった一ツ目の怪物とオデュッセウスの対話の大部分がカットされている。その代わりに監督は、この怪物が目を覚まし、羊を追い、オデュッセウスの部下を食らい、眠りにつき、そして翌日にまた同じことを繰り返すという、日々の営みを描くことで、ある種の存亡の危機感(実存的な恐怖)を挿入している。この獣のグロテスクなデザインと不気味なサウンドデザインが恐怖を募らせるが、サイクロプスは人間を咀嚼していない時、彼らの存在にほとんど気づいてさえいないようで、単なる人間よりも高い次元に存在しているかのように見える。デイモン演じるオデュッセウスが指摘するように、「我々はアリに話しかけようとはしない。なら、なぜこの獣が我々に話しかける必要があるのだろうか?」 冥界への旅は実に見事に具現化されており、オデュッセウスはそこで、かつて自分の指揮下で命を落とした男たちと遭遇する。「俺はお前の嘘のために死んだのだ」と語りかけるのは、エリオット・ペイジ演じるシノンの亡霊だ(ファンの憶測に反して、ペイジはここでアキレウスを演じているわけではない)。そして、これこそがオデュッセウスにとっての最大の苦悩である。過去20年間にわたり、彼の画策のせいでいったい何人の人間が死んでいったのだろうか? もう一つの記憶に残る、そして恐ろしい瞬間は、サマンサ・モートン演じる魔女キルケーがオデュッセウスの部下たちを豚に変える場面だ。魔法のシチューという不快な食事がお膳立てされた後、彼女はリック・ベイカーの特殊メイクを彷彿とさせるスタイルで、素手を使って彼らの肉体をこね、豚の姿へと変形させていく。キルケーの行動がどこか正当化されているように描かれていることは、戦争が人間に何をもたらすのか……あるいは、なぜ人間は戦争をするのかという、本作のテーマ的な検証を際立たせる役割を果たしている。 しかしそれこそが、ホメロスの物語を再現する上での美しさ、醜さ、そして独創性の閃きがあるにもかかわらず、ノーラン版『オデュッセイア』の核心にある問題の一つでもある。デイモンは、自身の発明である「トロイの木馬」によってアガメムノンに勝利をもたらした、葛藤を抱える戦士として主人公を演じている。だが、その結果はどうだったのか? 戦争が終わった後、このキャラクターは文字通り海で迷子になるのと同じくらい、精神的にも漂流することになる。 しかしながら、この設定における問題は、オデュッセウスが時系列的に物語の早い段階でこのような精神状態に陥っているにもかかわらず、自身の気づきから教訓を得ていないかのように、自分をその状況に追い込んだのと同じ過ちを何度も繰り返すことだ。さらに、デイモンはオデュッセウス役として十分に職務を果たしてはいるものの、古典的な解釈におけるキャラクターに本来備わっている、狡猾でトリックスター的な魅力に欠けている。ギリシャ神話におけるオデュッセウスは、精神異常を装うことで徴兵を免れようとした、いわばドラマ『マッシュ』のクリンガーのような真似をしていた。しかし映画の中の彼は、アガメムノンの招集に義務感を持って気高く応じている(興味深いことに、本作で徴兵逃れをしているのはパティンソン演じるアンティノオスの方だ)。 その点で言えば、この『バットマン』俳優(ロバート・パティンソン)は、基本的にはメインの悪役であるポジションでできる限りのことをしているが、ペネロペに対する求婚者たちは本質的に単に悪いことをする悪者としてしか描かれていない。『オデュッセイア』のいくつかの解釈が求婚者たちにもたらしたニュアンス、例えば「オデュッセウスが彼らの父親や祖父、兄たちを戦争に駆り出し、全員を死に追いやった。そして唯一の生存者である王だけが故郷に帰ってきたのだ」という視点は、残念ながらノーランによって深く探求されることはなかった。
つづき関連性のありそうな記事
2詳細 お気に入り登録
映画「バイオハザード」日笠陽子さんや杉田智和さんなど吹替版声優第2弾の13名が公開!
2026年10月01日 12時00分
10月9日より全国の映画館で公開予定の映画「バイオハザード」について、日本語吹替版声優を担当する声優陣13名を公開した。
3詳細 お気に入り登録
『超かぐや姫!』の世界観が詰まったスマートウォッチが登場!作中曲再生やユニークなギミック搭載
2026年10月01日 16時13分
ウエニ貿易はキャラクターコラボ専門ブランド“GARRACK (ギャラック)”から、映画『超かぐや姫!』のかぐや、酒寄彩葉、月見ヤチヨをイメージしたスマートウ...
4詳細 お気に入り登録
【USJ】『薬屋のひとりごと』コラボが再び開催決定。『劇場版 亡妃の秘宝』と連動し、水上都市が舞台の新たなプログラムが登場
2026年10月01日 15時50分
ユニバーサル・スタジオ・ジャパンは、アニメ『薬屋のひとりごと』との2回目となるコラボを発表した。2027年2月10日~6月30日の期間限定で開催。『劇場版 薬...
8詳細 お気に入り登録
【まどマギ 廻天×ジョイフル】まどかたちが制服風の衣装で登場! 描き下ろしグッズの数量限定販売や、お食事券が当たるキャンペーンが10/6開催
2026年10月01日 16時40分
ジョイフルは、『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ<ワルプルギスの廻天>』とのデジタルコラボキャンペーンを、10月6日から11月10日15時まで開催します。
5詳細 お気に入り登録
Prime Video,映画「マインクラフト/ザ・ムービー」の見放題配信を開始。10月2日には映画「8番出口」も配信
2026年10月01日 19時11分
Amazonは本日(2026年10月1日),プライム会員向けサービス「PrimeVideo」にて映画「マインクラフト/ザ・ムービー」の見放題配信を開始した。本作は,「世...
2詳細 お気に入り登録
「薬屋のひとりごと」第3期10月2日~放送開始! 【秋アニメ2026】12月には原作者原案による完全新作ストーリー映画も
2026年10月01日 15時00分
アニメ「薬屋のひとりごと」第3期が本日10月2日23時より日本テレビ系30局ネットにて放送開始となる。配信は10月3日0時~順次実施される。