欲望と死が蠢くネザーヴェイルシティへ
トルコのインディーデベロッパーMetaphor Gamesが手がける『Celestial Return』は、ネオン光と退廃が支配する巨大都市「ネザーヴェイルシティ」を舞台にしたダイス駆動型のディストピアノワールRPGだ。
プレイヤーは落ちぶれた探偵ハワードとなり、喋る謎のバラ「ローズ」と共に、都市の深層に潜む企業腐敗や超自然的存在の謎へ踏み込んでいく。ノワール映画の哀愁とサイバーパンクの殺伐とした空気感が融合した世界観は、開始数分でプレイヤーをその重厚な物語へ引き込む力を持っている。
ダイスは「酸素」――リソース管理と運が命を左右する独特のゲーム性
本作の根幹を成すのがダイスシステムだ。ダイスは単なる能力判定のツールにとどまらず、状況の打破、取引、そしてプレイヤー自身の生命線(リソース)として機能する。
選択肢ごとに所持ダイスを割り当てて判定に挑むが、リソースのやりくりは非常にシビアだ。無計画に使えば一瞬で底をつき、逆に温存しすぎると絶好の機会を失う。判定に失敗した場合でも物語が停止せず、泥臭く泥沼の展開へ雪崩れ込むストーリーテリングは見事と言わざるを得ない。このギリギリの緊張感こそが、本作最大の醍醐味だ。
脳内で蠢く「3つの自我」と喋るバラ
主人公ハワードの内部には「知性」「美徳」「愚かさ」という3つの人格(声)が存在し、対話や行動の局面で絶えず干渉してくる。どの思考に耳を傾けるかによってハワードの性格が形成され、選択可能なルートや会話の展開が変化していく。
皮肉屋で口の悪い相棒の「ローズ」との掛け合いも味わい深く、シリアスな世界観の中に絶妙なユーモアを添えている。自己の精神と対峙しながら真実を追うゲームデザインは、クラシックなテーブルトークRPG(TTRPG)を現代的なデジタル表現へと昇華させている。
尖りきったビジュアルと重低音サウンドがもたらす圧倒的没入感
アートスタイルは、アメコミの力強い線画と暗黒漫画の精密なディテールが融合した独自の手描きグラフィックで統一されている。どの画面を切り取っても1枚の絵画として成立するほどの美しさと生々しさが同居している。
さらに、場面ごとに変化するノワールジャズ、低音が響くサイバーパンクテクノ、そして攻撃的なデスメタルなどのBGMが世界観の退廃的雰囲気を完璧に補強する。視覚と聴覚の双方から圧倒的な熱量が押し寄せてくる感覚は、インディー作品ならではの強烈な個性を放っている。
総評:不完全さすら魅力に変える、エッジの効いた尖鋭的インディー作
ゲームバランスや難易度調整の面でやや尖った設計が見受けられ、プレイヤーを選ぶ側面はある。しかし、明確なビジョンを持って構築された世界観、極上のアート、そしてダイスに一喜一憂するスリリングな体験は、他の追随を許さない魅力を備えている。
なお、現時点では公式の日本語対応が行われておらず、テキスト量が膨大なRPGだけにプレイのハードルはやや高めだ。今後のアップデートや言語追加のロードマップにおいて、日本のプレイヤーもこの濃厚な世界観に没頭できるよう、正式な日本語ローカライズの実現が強く期待される。
重厚なSFノワールや思考型RPGを求めるプレイヤーにとって、チェックしておいて損はない一作だ。
ゲーム概要
- タイトル: Celestial Return
- 発売日: 2026年7月14日
- 開発元: Metaphor Games
- パブリッシャー: Shoreline Games
- 価格: ¥ 1,200
- 言語対応: 日本語対応なし
- ストアリンク: Steamストアページ