放射能を帯びたクモに噛まれた経験もない、アベンジャーズのメンバーでもない一般のキャラクターたちにとって、これからは極めて厳しい時代がやってくるこれは、映画やTV界隈で長年マーベルやDCの取材を続け、配信番組やポッドキャスト『Comic Book Club』のホストも務めるアレックス・ザルベンによるIGNのオピニオン記事である。彼は以前、メイシーズ・サンクスギビング・デイ・パレードの前にスパイダーマンの巨大バルーンに触れて泣いたことがある人物だ。 この週末、『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』はスパイダーマン史上最高の高みに躍り出た。これまでの記録を塗り替える興行収入を叩き出し、『アベンジャーズ/エンドゲーム』を超えて全米オープニング初日興収第1位を獲得しただけでなく、週末興収でも『エンドゲーム』の記録を更新し、全米歴代1位となる3億6000万ドル(約540億円)という驚異的な数字を打ち立てた(世界興収でも歴代2位につけており、文句なしのロケットスタートだ)。ソニー・ピクチャーズにとっては最高の祝福となる大ヒットだが、この記録はここ数年くすぶり続けていたある予感を確信へと変えた。——私たちの知るマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)は、もう終わりを迎えたのだ。 「ずいぶん意地の悪い見方じゃないか? せっかくの祝勝ムードに水を差すな」と思うかもしれない。「マーベル完全復活だ!」という歓喜の叫びに少しだけ耳を傾けるのをやめてロジックに目を向ければ、そこに明確なパターンと、マーベル・スタジオが今後無視できなくなる勝ち筋が見えてくるはずだ。要約すればこうだ。これからの彼らは「スパイダーマン映画」と「アベンジャーズ映画」、ほぼそれだけを作っていくことになる。もちろん例外はあるだろうし、MCU版の新たな『X-MEN』に誰もが(あるいは大半のファンが)期待を寄せているのは確かだ。だが、スパイダーマンやアベンジャーズほどの高みに達したマーベル映画やTV作品は他には存在しない。最初の10年間で築いた文化的大ヒットの再現に苦しむマーベル——そして親会社であるディズニー——は、確実に「安全に稼げる安定策」へと回帰していくはずだ。これまでのところ、その安全策とはピーター・パーカーと、タイトルに「アベンジャーズ」と冠された実質的な『Circus of the Stars』(気になる若者は検索してみてほしい)的なお祭り映画のことである。 MCUはいかにしてこの境地に達したのか 『エンドゲーム』以降のMCUの惨状については語り尽くされた感があるが、スタジオが制作する映画やドラマのクオリティをどう評価するかは別として、劇場や配信における実際の視聴者数が年々減少しているのは紛れもない事実だ。その一部はマーベル固有の問題ではなく、映画観客や配信視聴者の行動様式の変化によるものであり、あらゆるスタジオや制作会社が現在進行形で頭を悩ませている課題でもある。スクリーン上の列車が突っ込んでくる映像を見て観客がパニックを起こした時代から今日に至るまで、エンターテインメント業界のキーワードは常に「変化」だったのだから。 しかし、過去5年間のマーベル作品を映画史全体と比較してみると、2019年以前のように安定した興行収入が得られなくなっている。時折スマッシュヒットは生まれるものの、過去10年間で作品の成功指標となった「世界興収10億ドル」の大台を突破したのは『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』と『デッドプール&ウルヴァリン』の2作のみ。残りのMCU作品は5億ドルの大台に届くか届かないかというラインにとどまっている。5億ドルでも大金には違いないが、スタジオや株主が見ているのは右肩上がりの持続的な利益だ。『ファンタスティック・フォー:ファースト・ステップス』の5億2200万ドルという打ち止め感のある数字は満足できるものではなく、歴史的大爆死となった『マーベルズ』(2億6000万ドル)と比べても、劇的な改善とは言えない。 TVシリーズ(配信作品)側でも同様のジレンマが起きており、視聴者は徐々に離脱している。ここで一つ注釈が必要だ。映画の興行収入は広く公表されるが、配信の視聴データは不透明である。ファンのランキングやSNSでの盛り上がり指標は存在するものの、配信プラットフォーム自身が発表する数字には多くの「※ただし〜」という注記がつきものだ(「火曜日に配信されたロキという名前のキャラクターのデビュー作品としては今月第2位」といった具合に)。そのため、独立した第三者機関として約1ヶ月遅れで数字を発表するニールセンのような調査会社のデータを見るのが有益だ。かつてはニールセンのランキング常連だったマーベルだが、最近のシーズン作品は「オリジナル配信番組トップ10」に辛うじて滑り込む程度。『デアデビル:ボーン・アゲイン』に至ってはランクインすらできず、『ワンダーマン』も配信初週に一瞬顔を出しただけで姿を消した。また10億という数字を引き出すなら、Netflix作品がニールセンのチャートで日常的に叩き出す「10億分視聴」という大台は、Disney+のマーベルドラマにとってここ数年遥か遠い夢となっている。 (話が脱線しすぎないよう補足しておくと、配信においては単発の爆発的ヒットだけが重要なのではない。Disney+に揃ったMCU映画やドラマの膨大なライブラリは間違いなく加入者を繋ぎ止める要因であり、『アベンジャーズ:ドゥームズデイ』のような大型イベントに向けて過去作が一気見されること自体にも大きな価値がある。) 要するに、現在のMCUは映画でも配信でも本来あるべき機能性を失っているのだ。そしてその破綻の兆候は、『スパイダーマン』が記録的な大ヒットを飛ばす直前の一週間にも露骨に表れていた。まずマーベルは、更新が決まっていたはずのドラマ『ワンダーマン』を打ち切った。それも同作の共同クリエイターであるデスティン・ダニエル・クレットンが監督を務めた『ブランド・ニュー・デイ』のプレスツアーやレッドカーペットを終えた直後というタイミングで、だ。『ワンダーマン』は爆発的な視聴者数こそ獲得できなかったものの、近年のMCU作品の中では批評家から最も高い評価を受けており、主演のヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世がエミー賞にサプライズノミネートされるほどだった。そしてその翌日には、マハーシャラ・アリが長年開発地獄にあった映画『ブレイド』からの降板を表明し、プロジェクトに事実上のとどめを刺した。(マーベルのトップであるケヴィン・ファイギ自身も以前、2019年に発表した同作を成立させられなかったことについて「自分は大失敗者だ」と自虐していた)。 ケヴィン・ファイギの優先順位の変化 これら2つのニュースを見れば、マーベルが優先順位をシフトさせているのは明らかだ。批評家からの絶賛も重要だが、それ以上に制作費を回収できる作品でなければ意味がない。『ワンダーマン』打ち切りの公式な理由は明かされていないが、マーベル内部の組織改編(ブラッド・ウィンダーバウムがTV・アニメ・コミック・フランチャイズ部門のトップに昇格し、コミック部門がニューヨークからロサンゼルスへ移転)に伴い、優先順位の見直しが行われたのは間違いない。同様に、『ブレイド』もクランクイン直前まで行っては流れる事態を繰り返しており、低予算で手堅く作れるはずのヴァンパイアハンター映画にこれ以上の予算を費やすのは合理的ではなくなっていた。かつてウェズリー・スナイプスが「坂道をスケートで駆け上がろうとするおめでたい奴らがいる」と捨て台詞を吐いたように(アリのブレイド役なら楽に坂を下れるはずだったのに)、このプロジェクトが二度と制作費を回収できない「金食い虫」と化したのは明白だった。 …
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