戦争から逃げ延びた果てに待っていたのは、英雄としての凱旋ではなく、死体同然の扱いだった。
工業廃液と蒸気が充満する都市「ドレッジポート(Dredgeport)」。ここはギャングが貧民街を支配し、戦死者の遺体すら燃料として燃やされる狂気の街だ。プレイヤーであるあなたは元兵士として、この掃き溜めに投げ捨てられる。手元に残ったのは、辛うじて繋ぎ止めた命と、磨り減りかけた正気だけ。
Clockwork Birdが開発した『Duskpunk』は、そんな極限状態から始まるダイス駆動型のRPGだ。傑作『Citizen Sleeper』や『Disco Elysium』、そしてテーブルトークRPG(TRPG)『Blades in the Dark』の系譜を感じさせる本作は、テキスト主導のナラティブとスリリングなリソース管理が見事に融合している。
薄汚れた路地裏でネズミを食らい、怪しげな薬で正気を保ちながら、やがて都市を揺るがす革命の火種となるかもしれない……。そんな、煤(すす)と鉄の匂いが漂う本作のレビューをお届けする。
油絵のようなアートが描く、美しくも残酷なディストピア
ゲームを開始してまず目を奪われるのは、その独特なビジュアルスタイルだ。油絵調の粗いタッチで描かれたドレッジポートの風景は、スチームパンク特有のロマンと、産業革命期の貧困街が持つ陰鬱さを見事に表現している。BGMも相まって、画面の向こうから都市の悪臭や湿気が漂ってきそうなほどの没入感がある。
この街に「善人」は少ない。あなたに近づく者は、あなたの労働力を搾取しようとするか、あるいは別の何かを企んでいるかだ。しかし、冷たい鉄の街にも血の通った人間ドラマがある。共に働く労働者、理想に燃える革命家、あるいはただ生き延びようとする隣人たち。彼らとの会話はテキストベースで進行するが、その書き込みは非常に深く、プレイヤーに対し「誰を信じ、誰を切り捨てるか」という重い選択を常に突きつけてくる。
賽の目が運命を決める、ギリギリの生存戦略
本作のゲームシステムは、TRPGファンや『Citizen Sleeper』プレイヤーには馴染み深いものだ。
1日の始まりにダイスを振り、出た目(アクションポイントとしての役割と、成功率の判定)を都市の各所にある「行動スロット」に割り振っていく。高い目は危険な仕事や重要な交渉に使い、低い目は安全な作業や休息に充てる、といった戦略が必要になる。
管理すべきリソースは「体力(Health)」「エネルギー(Energy)」そして「ストレス(Stress)」。これらは常に枯渇の危機に瀕している。食料を買う金がなければエネルギーが尽き、過酷な労働や衝撃的な出来事に直面すればストレスがマッハで蓄積し、正気を失う。
序盤のヒリつき具合は特筆ものだ。「今日はまともな食事ができるだろうか」「この傷を治す包帯代を稼ぐために、また危険な賭けに出なければならないのか」――そんな極限の自転車操業が、プレイヤーをドレッジポートの住人へと変えていく。ネズミを焼いて飢えをしのぎ、怪しい密造酒でストレスをごまかす。その泥臭い生存体験こそが本作の醍醐味だ。
労働者よ、団結せよ――あるいは支配せよ
ゲームが進むにつれ、プレイヤーは単なる浮浪者から、都市の命運を左右する存在へと成長していく。スキルツリーを伸ばし、特定の派閥と関係を深めることで、物語は「生存」から「変革」へとシフトする。
特に印象的なのは、プレイヤーの行動が都市に物理的・社会的な影響を与える点だ。ストライキを扇動して工場の稼働を止めたり、裏社会のパワーバランスを書き換えたり。そこには「Clock(時計)」システムが採用されており、特定の行動をとるたびにゲージが進行し、満タンになるとイベントが発生したり、取り返しのつかない事態が起きたりする。このタイムリミットの概念が、常に「今、何を優先すべきか」という緊張感を生み出している。
一部の展開において、物語が革命や特定の思想へ強く誘導される(いわゆるレールロードされる)感覚を覚える場面もあるかもしれない。しかし、そこに至るまでのプロセスや、細かな会話の端々で見せる「自分なりのスタンス」は尊重されていると感じた。
総評:テキストRPGファンに捧ぐ、煤けた宝石
『Duskpunk』は、派手なアクションやボイスアクティングこそないものの、重厚なテキストと手堅いゲームメカニクスでプレイヤーを惹きつける作品だ。
クリアまでは5〜10時間程度とコンパクトながら、その体験密度は高い。序盤の圧倒的な「持たざる者」としての無力感と、そこから這い上がり、やがては都市のシステムそのものに立ち向かうカタルシス。もしあなたが『Citizen Sleeper』のようなシステムが好きで、スチームパンクの退廃的な世界観に浸りたいなら、この作品は間違いなく刺さるはずだ。
日本語非対応ではあるが、英語のテキストを読み解く労力を払ってでも、ドレッジポートの夜明け(あるいは夕暮れ)を見届ける価値はある。
ゲーム概要
- タイトル: Duskpunk
- ジャンル: ダイス駆動型RPG / スチームパンク / ナラティブ
- 開発元: Clockwork Bird, James Patton
- パブリッシャー: Clockwork Bird
- 発売日: 2025年11月20日
- 価格: 2,300円
- Store URL: https://store.steampowered.com/app/2610880/Duskpunk/