我々はいつまで、ダンジョンで出会う異形たちを剣や魔法で痛めつけなければならないのだろうか。彼らはただ、腹が減っているだけかもしれないのに。
そんな「平和的」な解決策……いや、ある意味で暴力よりも残酷な「食」の暴力でダンジョンを攻略するゲームが現れた。それが『Hungry Horrors』だ。ジャンルはいわゆる『Slay the Spire』フォロワーのデッキ構築型ローグライクだが、本作に「攻撃力」という概念はない。あるのは「満腹度」と「味覚」だけだ。
早期アクセスとしてリリースされた本作を早速プレイしてみたが、これが単なるイロモノ枠に留まらない、骨太で味わい深い(そして少し泥臭い)良作だったので紹介したい。
敵を殺すな、腹を満たせ

本作の主人公は、少しばかり口の悪いプリンセス。プレイヤーは彼女となり、イギリスやアイルランドの民間伝承に登場する恐ろしい怪物たちと対峙する。だが、剣は振るわない。代わりにデッキから「フィッシュ・アンド・チップス」や「ハギス」といった伝統料理カードを切り出し、怪物の胃袋を限界まで満たして満足させ、帰ってもらうのだ。
システムは非常にシンプルかつ奥深い。敵のHPバーにあたるのは「空腹ゲージ」。これを料理で満タンにすれば勝利となる。しかし、相手は偏食家のモンスターだ。「甘いものが食べたい」「塩辛いものは嫌い」といった強烈な好みがある。
プレイしていて最も脳汁が出るのが、この「味覚コンボ」が決まった瞬間だ。 例えば、怪物が「塩辛い」料理を欲している時に、適切なカードを切ると、次は「旨味」を欲しがる……といった具合に連鎖(クレイビング・チェーン)が発生する。この連鎖を繋げば繋ぐほど、満腹度の上昇値が跳ね上がっていく。
逆に、相手が「嫌い」な属性の料理を出してしまった時の絶望感は凄まじい。せっかく積み上げた満腹度がリセットされたり、最悪の場合はゲロを吐かれて戦況が振り出しに戻る。 「せっかく作ったヨークシャープディングを吐き出すな!」と、モニターの前で叫びそうになったが、これがこのゲームの醍醐味でもある。
英国の「暗黒」と「ユーモア」がスパイス

ビジュアルは温かみのあるピクセルアートで描かれているが、雰囲気は「Cozy(居心地が良い)」と「Horror(恐怖)」が同居する奇妙なバランスだ。
特筆すべきは、ゲームオーバー時の演出である。我らがプリンセスが怪物に捕食されるシーンが、敵キャラクターごとに専用のアニメーションで用意されているのだ。これがまた、ドット絵ながら妙に力が入っており、可愛らしくも残酷。「次はどんな風に食べられるんだろう」という歪んだ好奇心が、再挑戦のモチベーションになってしまうのが悔しい。
また、登場する怪物はブラック・アニスやジェニー・グリーンティースといった、実際の伝承に基づく本格的なラインナップ。図鑑(コーデックス)には詳細な解説もあり、プレイするだけで英国の妖精・怪物事情に詳しくなれるという教養的な側面も持ち合わせている。不気味だがどこか愛嬌のあるデザインは、見ているだけで飽きない。
早期アクセスだが「味」はしっかりしている

本作は現在早期アクセス中だが、ゲームループとしての完成度は既に高い。 戦闘終了後には新しいレシピ(カード)や食材を入手し、拠点でデッキを強化していく。最初は作れなかった複雑な料理が作れるようになり、初期デッキを自分好みにカスタマイズして次の探索に挑む……この循環が実にスムーズだ。
もちろん、翻訳の一部が未完全だったり、UIで痒いところに手が届かない部分はある。特定の味のカードが手札に来なくて詰む、といったローグライク特有の理不尽さもゼロではない。しかし、それらを補って余りあるオリジナリティと、開発者の「こういうゲームが作りたいんだ!」という熱量が伝わってくる。
総じて、『Hungry Horrors』は「戦わないローグライク」として非常にユニークな体験を提供してくれる。 カードゲーム好きはもちろん、英国文化や神話、そして何より「料理」というテーマに惹かれるなら、間違いなく「買い」の一皿だ。さあ、包丁を研いで、腹ペコの怪物たちに極上のディナーを振る舞おうではないか。失敗したら、自分がディナーになるだけだが。

ゲーム概要
- タイトル: Hungry Horrors (ハングリー・ホラーズ)
- 発売日: 2026年1月19日
- 価格: ¥ 1,206
- 開発元: Clumsy Bear Studio
- パブリッシャー: Clumsy Bear Studio
- プラットフォーム: PC (Steam)
- 日本語対応: UI・字幕対応
- ストアURL: https://store.steampowered.com/app/3048840/_Hungry_Horrors/







