フランスの気鋭デベロッパーRedlock Studioが手がける『The Maze Chronicles』ユニバースに、新たな系譜が刻まれた。前作『Blackshard』で提示された圧倒的な空気感をそのままに、さらに深化させた一人称視点探索アドベンチャー『HYPNOS』がSteamにて早期アクセスを開始した。
本作が描き出すのは、H.P.ラヴクラフトの「幻夢境(ドリームランド)」に強くインスパイアされた、常軌を逸したスケールの超巨大構造物(メガストラクチャー)の世界。プレイヤーは過去に縛られた放浪者「ショロン」となり、夢に現れる顔なき少年「マシュー」を追って、神の住まう聖なる山の影に築かれた「無名都市」へと足を踏み入れることになる。
まずは、その異様かつ美麗な世界観を捉えた最新のローンチトレーラーをチェックしてほしい。
脳裏に焼き付く、非人間的スケールの「狂気の建築」

本作の幕が上がった瞬間、プレイヤーの眼前に広がるのは、人類の設計思想を完全に無視したかのようなブルータリズム建築と、どこまでも続く超巨大構造物の群れだ。
まるでSF漫画の金字塔『BLAME!』の世界に迷い込んだかのような、あるいはピラネージの「空想の牢獄」が現実化したかのような、圧倒的な垂直性と質量。その狭間を縫うように歩く感覚は、自分が広大な宇宙に浮かぶ一粒の塵にすぎないという錯覚を強烈に抱かせる。
これほどまでに巨大で冷徹な世界でありながら、本作のビジュアルは一瞬たりとも退屈させない。陰影のコントラスト、時折顔をのぞかせる歪んだ自然、そして会話シーンやローディング画面を彩る2Dアートの美しさは、どの瞬間を切り取っても一枚の絵画、あるいは洗練された壁紙として成立するほどの完成度を誇っている。
さらに、この狂気的な美空間に命を吹き込んでいるのが、フランスのマルチメディアアーティストALT236とAL9000による至高のサウンドトラックだ。アンビエント、レトロ、そして夢幻的なエレクトロニックミュージックが融合した音響は、時に未知への好奇心を煽り、時に底知れぬ孤独と畏怖をプレイヤーの耳底に植え付ける。この音と空間の調和だけでも、本作を体験する価値がある。
夢の物質を書き換え、運命を弄ぶ「静謐な旅」

ゲームプレイの根幹は、戦闘やゲームオーバー、そして煩わしいパズル要素を一切排除した「純粋な探索とダイアログ」にある。ヘッドアップディスプレイ(HUD)すら存在しない画面は、プレイヤーを無名都市への没入へと誘う。
本作が前作から大きく進化した点は、より明確なナラティブの導入と、利便性の向上だ。セミオープンワールドとして構築された無名都市には、夢見人、精霊、獣、そして奇怪な住人たちが息づいており、彼らとの会話はビジュアルノベル形式で深く進行する。クトゥルフ神話特有の難解で持って回った言い回しが、世界の神秘性をより一層引き立てており、断片的なロア(背景設定)を自ら繋ぎ合わせていく過程は知的な興奮に満ちている。
また、広大なマップを行き来するための「テレポートシステム」が追加されたことで、移動のストレスは大幅に軽減された。落下ダメージが存在せず、足場を踏み外してもノータイムで直前のチェックポイントに引き戻されるスピーディーな仕様のおかげで、一見届きそうにない高所の構造物や、ルートから外れた未踏の地へ強引にアプローチを試みる「境界外探索」のスリルを存分に味わうことができる。
「あの遥か彼方に見える超巨大な塔に、本当に歩いていける」
この普遍的な冒険の衝動を、本作は見事に肯定してくれる。出会う人々の destiny(運命)を左右する選択肢、そして夢の物質を変化させることで世界の構造そのものが変貌していく多層的なギミックは、この悪夢の旅路を単なる一本道の散策では終わらせない。あるエリアで道に迷い、途方に暮れながら彷徨った果てに、静かに佇む猫と世界の理について語り合う──そんなシュールで忘れがたい体験が、ここには用意されている。
早期アクセスゆえの粗削りな美と、その不確実性

絶賛に値するアートワークの一方で、本作が未だ「早期アクセス」の途上にあるという事実は留意すべきだろう。
現時点では全4種のうち1つのメインエンディングと、主要エリアのみが実装されており、ストーリーはやや唐突な形で区切りを迎える。また、最適化の面では課題が残されており、特に広大なロケーションではハイエンドな環境であってもフレームレートの低下やスタッター(カクつき)が散見される。地形の当たり判定が甘く、構造物の隙間にスタックしてメインメニューへの退避を余儀なくされるといった、小規模開発チーム特有の「愛嬌のある欠陥」も存在する。
しかし、それらの粗削りな部分を差し引いても、この無名都市が放つ磁力は凄まじい。探索を誘導するナビゲーション(コンパスや詳細なジャーナル)が意図的に排除されているため、人によっては「どこへ行けばいいのか分からない」という迷子状態に陥るリスクはあるが、その不親切さすらも、異界を彷徨う放浪者のリアリティとして機能している。
万人向けではない。アクションや明確なゲーム的カタルシスを求めるならば、本作はただの退屈な「ウォーキングシミュレーター」に映るだろう。だが、リミナルスペースや巨大構造物に強烈に惹かれる者、ラヴクラフトの描く底知れぬ夢幻世界に魂を囚われたい者にとって、本作は現時点で既に、替えの利かない「絶対的な一品」である。

ゲーム概要
- タイトル:HYPNOS
- 開発元 / パブリッシャー:Redlock Studio
- 発売日:2026年5月6日(早期アクセス開始)
- 価格:¥ 2,588
- ジャンル:一人称視点探索アドベンチャー / ウォーキングシミュレーター
- 対応言語:日本語字幕対応
- プラットフォーム:PC(Steam) ※将来的にPS5、Xbox Series X|Sでの1.0リリースを予定
- ストアリンク:Steam: HYPNOS 公式ページ







