「部屋に大きな水槽を置いて、色とりどりの熱帯魚を眺めたい」 そんなささやかな、しかし実現するにはハードルの高い夢を抱いたことはないだろうか。現実のアクアリウムは美しいが、水換え、コケ掃除、水温管理、そして維持費……と、その裏には絶え間ない労力が隠れている。
だが、デジタルな水槽なら話は別だ。2024年3月30日に正式リリースを迎えた『Aquarist』は、自宅にいながらにして究極のアクアリスト体験を提供するシミュレーションゲームだ。 プレイヤーはただ魚を愛でるだけでなく、アクアリウムショップのオーナーとして、顧客の無理難題に応え、ビジネスを拡大させていくことになる。父親の地下室から始まった小さな店が、やがて巨大な水族館へと成長していくサクセスストーリー。その過程で味わえる「癒やし」と、意外なほどの「泥臭さ」について語っていこう。
理想の「水景」を描き出す没入感

本作の醍醐味は、なんといっても水槽のカスタマイズにある。 サイズや形状を選び、底砂を敷き詰め、流木や石、水草を配置していく。この「アクアスケーピング(水景作成)」の工程が、実に時間を溶かす。 現実では重くて動かせない岩も、マウス一つで軽々と配置できる快感。魚の種類も豊富で、金魚やグッピーといったお馴染みの観賞魚から、サメやウミガメ、果てはタコのようなエキゾチックな生物まで飼育可能だ。

水草が揺れ、魚たちが泳ぎ回る完成した水槽を眺める瞬間は、何物にも代えがたい達成感がある。さらに、ゲーム内のカメラを使えば、自分の作り上げた水槽を撮影し、ポスターとして店内に飾ることもできる。この「俺の水槽を見てくれ!」という自己満足こそが、アクアリストの原動力なのだ。
「癒やし」だけではない、シビアなショップ経営

美しい水槽を眺めて一日を終えたいところだが、これは経営シミュレーションでもある。 顧客からのオーダーは、「子供の誕生日にピラニアを飼いたい」「レストランのキッチンに水槽を置きたい」など、多種多様かつワガママだ。予算内で要望を満たし、適切な環境(水温やpH、汚れ具合)を整えなければならない。
さらに、時間の概念が存在し、開店準備やメンテナンスに追われる日々は意外と忙しい。魚は生き物だ。餌をやらなければ腹を空かせるし、環境が悪ければ病気にもなる。時には寿命や事故で死んでしまうことさえある(その際、死んだ魚をトイレに流すという妙にリアルでシュールな処理方法が用意されているのには驚かされたが)。 この「生体を扱っている」という責任感が、単なるサンドボックスゲームとは一味違う緊張感を生み出している。
粗削りだが、そこには「愛」がある

正直に言えば、操作性には独特のクセがあり、オブジェクトの配置判定にイライラさせられることもある。翻訳も完璧とは言えず、時折挙動が怪しいバグに遭遇することもあるかもしれない。いわゆる「インディーゲーム特有の粗さ」は確実に存在する。
しかし、それを補って余りあるのが、アクアリウムという趣味への深い理解と愛だ。 水槽の汚れをスポンジでこすり落とす地味な作業や、適切なフィルターを選ぶ楽しみ、そして何より、魚たちが元気に泳ぐ姿を見た時の喜び。開発者が「こういう体験をさせたいんだ」という熱意が、画面の端々から伝わってくる。
アップデートによってコンテンツも拡充され、最初は小さな熱帯魚店だったものが、最終的には海洋生物を扱う博物館や巨大水族館へとスケールアップしていく過程は圧巻だ。
総評:魚好きなら一度は飛び込むべき沼

『Aquarist』は、完璧に洗練されたシミュレーターではないかもしれない。だが、自分の手で作り上げた水槽が並ぶ店内を見渡した時の満足感は本物だ。 リアルの水槽管理に疲れたベテランアクアリストも、これから魚を飼ってみたい初心者も、このデジタルの海には独自の発見があるはずだ。
約1,800円という、生体1匹分ほどの価格で手に入る夢の水族館オーナー生活。 あなたもバケツと網を手に、この深淵なるアクアリウムの世界へ飛び込んでみてはいかがだろうか。ただし、凝りすぎて現実の睡眠時間を削らないよう、用法用量を守って楽しんでほしい。
ゲーム概要
- タイトル: Aquarist
- ジャンル: カジュアルシミュレーション / サンドボックス
- 開発元: FreeMind S.A.
- パブリッシャー: PlayWay S.A., FreeMind S.A.
- プラットフォーム: PC (Steam)
- 発売日: 2024年3月30日
- 価格: 1,800円
- 対応言語: 日本語字幕対応
- ストアURL: https://store.steampowered.com/app/1430760/Aquarist/






