90年代の湿り気を帯びた空気、薄暗い店内に響くアーケード筐体の電子音。あの頃、私たちは確かにそこにいたはずだ。今回ご紹介する『Them』は、そんなノスタルジーを、冷や汗が止まらない純度の高い恐怖へと塗り替えてしまう心理的ホラー作品だ。
本作は一人称視点のアドベンチャーと、どこか懐かしくも歯応えのある2Dプラットフォームアクションが融合した、極めて挑戦的なインディータイトルに仕上がっている。
閉じ込められた少年と、地下から招く「何か」

物語の主人公は、1990年代のゲームクラブに取り残された9歳の少年、トミー。閉店後の静まり返った店内で目覚めた彼を待っていたのは、出口のない絶望と、地下から響く不気味なノイズだった。
地下室へ降りたトミーが出会うのは、意思を持つ「しゃべる肖像画」。この存在から提示されるのは、元の世界へ戻るための唯一の条件——それは、置かれたビデオゲームの中に入り込み、ミッションを完遂すること。現実の3D環境と、ゲーム内の2D世界。この二つの境界が曖昧になっていく感覚は、プレイヤーに言いようのない不安を植え付ける。
画面を越えて浸食する、2Dと3Dの巧みな融合

実際にプレイして驚かされるのは、その没入感の高さだ。3Dパートでは一人称視点で暗い室内を探索し、手がかりを探す。そして古いモニターの前に座り、コントローラーを握ると、画面は「ゲームの中」である2Dプラットフォーマーへと切り替わる。
特筆すべきは、2Dパートで手に入れたアイテムが、そのまま現実の3Dパートに反映される点だ。ゲーム内で鍵を拾えば、トミーの手元に実物として現れる。この「虚構が現実を侵食する」演出が、心理的な恐怖を一段と加速させている。
2Dパート自体も決して「ミニゲーム」と呼べるほど甘いものではない。某有名吸血鬼ハンターアクションを彷彿とさせるダークな世界観の中、二段ジャンプやダッシュといったスキルを駆使して進む本格派だ。特にボス戦の難易度は高く、手に汗握る死闘は、かつてのアーケードゲームで味わったあの「ヒリつき」を思い出させてくれる。
短編ながらも強烈な印象を残すマルチエンディング

本作のプレイ時間は1時間から2時間程度とコンパクトだが、その密度は非常に濃い。探索の端々に散りばめられた「ジャンプスケア(驚かし要素)」は、予測しているつもりでも心臓を跳ねさせる。
また、プレイヤーの行動や選択によって分岐するマルチエンディングを採用しており、一度クリアしただけでは解き明かせない謎が残るよう設計されているのも心憎い。短編だからこそ、全ての結末を見届けたいという衝動に駆られるのだ。

一部、アクションパートの操作性にクセを感じる場面もあったが、それすらも「90年代の荒削りなゲーム」をプレイしているというフレーバーとして楽しむことができた。何より、800円という低価格でこのユニークな体験を味わえるのは、インディーゲームファンにとって大きな収穫と言えるだろう。
暗い部屋で、ヘッドホンを装着し、画面の向こう側の「彼ら」と対峙してみてほしい。きっと、二度とゲームセンターの地下室には近づきたくなくなるはずだ。
ゲーム概要
- タイトル: Them
- ジャンル: 心理的ホラー / 2Dプラットフォーマー
- 開発・パブリッシャー: Lexip Games
- 発売日: 2025年6月18日
- 価格: ¥ 800
- 対応プラットフォーム: PC(Steam)
- 特徴:
- 3D一人称視点と2Dアクションの融合
- 90年代の不気味なゲームセンターという設定
- プレイヤーを翻弄するマルチエンディング
- 挑戦的なパズルとボスバトル
- ストアリンク: Steamストアページ






