19世紀ヴィクトリア朝の陰鬱な霧と、古くから伝わる「魔犬の伝説」。コナン・ドイルの名作『バスカヴィル家の犬』をベースにした推理劇でありながら、本作が放つプレイフィールは従来の古典ミステリーアドベンチャーとは根底から異なっている。最大の特徴は、事件関係者との会話に定型文の「選択肢」が存在しない点だ。
プレイヤーはキーボード入力や音声を通じて、自らの言葉で自由に容疑者たちへ問いかける。大規模言語モデル(LLM)によって駆動されるNPCたちは、こちらの言葉尻や態度を記憶し、心理的な防壁(心鍵)を張り巡らせながら狡猾に応答してくる。固定ルートをなぞるのではなく、生きた人間と駆け引きを交わしているかのような緊張感が漂う野心作だ。
自由入力の尋問がもたらす極上の駆け引き

本作の捜査は、あらかじめ用意されたセリフを選ぶ作業ではない。世間話から入って警戒を解くのか、それとも現場で見つけた矛盾を突きつけて揺さぶりをかけるのか、すべてはプレイヤーの手腕に委ねられている。
実際に容疑者たちと対峙してみると、その反応の生々しさに驚かされる。こちらの詰問に対して平静を装おうと取り繕ったり、核心に触れられた瞬間にあからさまに話を逸らそうとしたり、時には露骨に不快感を示して口を閉ざしてしまう。通り一遍の台本を読まされている感覚は一切なく、相手の表情や言葉の淀みから「こいつは絶対に何かを隠している」と直感した瞬間、思わず背筋がゾクッとするほどのスリルが走る。
数百種類に及ぶ証拠品やアイテムの使い道もプレイヤー次第だ。拾った凶器や遺留品を容疑者に突きつけて自供を迫るだけでなく、時には相手の機嫌を取るための「贈り物」として活用し、信頼関係を築いてから秘密を聞き出すといった心理戦も展開できる。
自らの頭脳で組み上げるロジックと推理パネル

集めた証言や証拠品は、ゲーム側が自動的に正解へ導いてくれるわけではない。手に入れた情報を自らの頭で整理し、独自の推理パネル上でどの証言と物証が結びつくのかを能動的に組み上げていく必要がある。
この推理構築のプロセスが実に心地よい。一見無関係に見えた沼地での不審な痕跡と、屋敷の住人が漏らした何気ない愚痴がひとつの線として繋がった瞬間、霧が晴れるような痛快なカタルシスが得られる。
ただし、自由度が高い反面、早期アクセス版特有の粗削りな部分も見受けられる。NPCへの質問において、核心となる意図が正しく伝わらないとフラグが進行しづらかったり、広大なフィールドでの手掛かり探しに手間取ったりする場面があった。AIの生成テキストやフラグ管理にはまだ調整の余地を残しているものの、開発陣によるアップデートの頻度は高く、意欲的な実験作としての魅力がその荒削りさを大きく上回っている。
本作はどんなプレイヤーにオススメできるか

本作は、手取り足取り導かれる親切な謎解きよりも、「自らの頭で仮説を立て、言葉を駆使して証言を引き出す本格的な心理捜査を味わいたいプレイヤー」に強くオススメしたい。
- 古典ミステリーやシャーロック・ホームズの世界観に没入したい人:ヴィクトリア朝の重厚な空気感のなかで、登場人物たちと泥臭い対話を重ねる捜査体験は唯一無二。
- 従来のテキスト選択式ADVに物足りなさを感じている人:正解の選択肢を探す作業から解放され、自由な発想で容疑者を誘導・尋問する新しいゲーム性を体感できる。
- 生成AI技術が切り拓くゲームの未来をいち早く体験したい人:NPCが文脈を汲み取り、リアルタイムに感情や返答を変化させるダイナミックな体験は、一見の価値がある。
ゲーム概要
- タイトル:名探偵シャーロック:シャドウストーカー
- 発売日:2026年8月21日(早期アクセス)
- 開発元:Gamercury
- パブリッシャー:Gamercury
- 価格:2,600円
- 言語対応:日本語字幕対応(全編フルボイス・多言語対応)
- ストアURL:https://store.steampowered.com/app/3561740/_/





