インターネット・ミームとして爆発的に広まった「リミナルスペース(境界的空間)」や「The Backrooms」。その中でも、どこまでも続くタイル張りのプール空間「Poolrooms」をテーマにした探索型ゲーム『POOLS』がついにリリースされました。
本作には、襲いかかってくる怪物も、謎解きも、UI(ユーザーインターフェース)すら存在しません。ただひたすらに、白亜のタイルと水で満たされた迷宮を歩くだけ。それなのに、なぜこれほどまでに心拍数が上がり、そして目が離せなくなるのか。
まるで異界に迷い込んだような美しさと、背筋が凍るような静寂が同居する本作の魅力を、実際に「迷子」になった筆者がレビューします。また、本作はVRにも対応しており、その没入感は「ゲーム」の域を超えていました。
圧倒的なリアリティで迫る「誰もいないプール」

ゲームを開始してすぐに圧倒されるのは、その映像美と空間表現の巧みさです。Unreal Engine 5と思わしきグラフィックは、濡れたタイルの質感、水面の揺らぎ、そして無機質な照明の反射を驚くほどリアルに描き出しています。
しかし、ただ綺麗なだけではありません。このゲームの真骨頂は「音」にあります。 BGMは一切ありません。聞こえるのは、自分の足音、水が跳ねる音、そして空間全体に響き渡る低い唸りのような環境音だけ。
水に入れば「チャプン」という重たい音が反響し、狭い通路では息遣いが大きく聞こえる。この音響設計が凄まじく、ヘッドフォンをしてプレイしていると、湿気を含んだプールの匂いさえ漂ってきそうな錯覚に陥ります。美術館や博物館のような静謐さがありながら、どこか「入ってはいけない場所」に足を踏み入れたような背徳感。この没入感は、ウォーキングシミュレーターというジャンルの中でも頭一つ抜けています。
「何かがいるかもしれない」という疑心暗鬼

公式説明にもある通り、本作にモンスターは登場しません。追いかけられることも、突然の大きな音(ジャンプスケア)で驚かされることもありません。
それなのに、怖いのです。
明るく清潔なプールエリアを歩いているときは「美しい」と感じるのですが、ふと暗がりの通路や、底が見えないほど深い水槽を覗き込んだ瞬間、猛烈な不安に襲われます。「この角を曲がったら何かいるのではないか」「水の中に引きずり込まれるのではないか」。そんな想像力が勝手に膨らみ、プレイヤー自身の精神を追い詰めていくのです。
これは、広場恐怖症や深海恐怖症、あるいは閉所恐怖症といった、人間の根源的な恐怖を刺激する作りになっています。モンスターという「他者」がいないからこそ、自分自身の孤独が浮き彫りになり、空間そのものが敵意を持っているように感じられる。この「静かなる恐怖」の演出は、既存のホラーゲームに飽きた人ほど新鮮に映るはずです。
VRモードで体験する「真の絶望感」

本作はVRモードにも対応していますが、はっきり言っておきます。VRでのプレイは、モニター越しの体験とは「別次元」の恐怖です。
通常のディスプレイでプレイしている時は「綺麗な映像を見ている」感覚ですが、VRヘッドセットを被った瞬間、あなたは「そこ」に放り込まれます。 目の前に迫る巨大な壁の圧迫感、見上げた時の天井の高さ、そして何より「深さ」の表現が段違いです。足元が見えないほど深い水槽の縁に立った時、本能的な恐怖で足がすくみ、動けなくなるほどのリアリティがありました。
水面が首元まで迫ってくる感覚や、狭いダクトを這って進む際の閉塞感は、人によってはプレイを中断したくなるほど強烈かもしれません。しかし、リミナルスペース特有の「あの世のような美しさ」の中に身を置く体験は、VRでしか味わえない極上のカタルシスでもあります。 VR機器をお持ちの方は、ぜひ覚悟を決めて飛び込んでみてください。ただし、水酔いと「精神的な酔い」には十分ご注意を。
迷宮としての完成度と「Level 0」の衝撃

ゲームプレイ自体は非常にシンプルです。基本的には歩いて出口を探すだけ。しかし、マップデザインが非常に秀逸で、似たような景色が続く迷路でありながら、光の導線やオブジェクトの配置によって、自然と先へ進めるようになっています。
時折現れる滑り台を滑り降りたり、アクションがアクセントになっており、単調さを感じさせません。特に全6章(+隠し要素)の中でも、特定のチャプターで見られる劇的な環境の変化には驚かされました。 ただのプールだと思っていた場所に、突如として異質なオブジェクトや、物理法則を無視したような構造物が現れる瞬間は、まさに悪夢(ナイトメア)的。
個人的に特筆したいのは、クリア後に解禁される、あるいはボーナス的に存在するチャプターの完成度です。開発者が「やりたかったこと」を全て詰め込んだようなその空間は、恐怖を超えて一種の芸術作品のような荘厳さすら感じさせました。
総評:デジタル空間への「没入」を求めるならマストバイ

『POOLS』は、ゲームに「攻略」や「派手なアクション」を求める人には向かないかもしれません。しかし、「雰囲気」や「体験」、そして「日常と非日常の境界」を味わいたい人にとっては、間違いなく傑作となり得るタイトルです。
プレイ時間は数時間程度とコンパクトですが、その密度は濃く、プレイ後もしばらくは白いタイルの残像が脳裏に焼き付いて離れないでしょう。 夏の蒸し暑い夜、あるいは冬の静かな夜に。部屋の電気を消して、この「出口のないプール」で孤独な遊泳を楽しんでみてはいかがでしょうか。
ゲーム概要
- タイトル: POOLS
- ジャンル: ウォーキングシミュレーター / 探索 / リミナルスペース
- 発売日: 2024年4月26日
- 開発元: Tensori
- パブリッシャー: Tensori, UNIKAT Label
- 価格: Steam¥1,250 / PS5 ¥1430
- 対応ハード: PC (Steam), PlayStation5
- VR対応: あり(SteamVR / PSVR2)
- ストアリンク:







